公開 2026-09-27
事業所の防災備蓄:会社で従業員1人3日分をどう数え、どこに置くか
会社の備蓄は一斉帰宅を抑えて3日間とどまるためのものです。東京都帰宅困難者対策条例の「1人3日分」を水9L・主食9食・毛布1枚・携帯トイレ15回分に分けて数える方法と、置き場所・鍵・配る担当の決め方をまとめました。
会社の備蓄は「帰らせない3日間」を支えるためのものです
家庭の備蓄は「家に居続けるため」のものですが、事業所の備蓄は少し目的が違います。大きな地震が起きた直後に従業員がいっせいに帰ろうとすると、道路や駅に人があふれ、救助や消火の妨げになります。だから会社は、まず社内にとどまってもらうという判断をします。その待機を支えるのが事業所の備蓄です。
東京都帰宅困難者対策条例(2013年4月施行)第7条は、事業者が従業者の一斉帰宅の抑制に努めることと、従業者の3日分の飲料水・食糧などを備蓄するよう努めることを定めています。内閣府のガイドラインも、備蓄量の目安を3日分としていますので、東京以外の事業所でも、この「1人3日分」を出発点にして差し支えありません。
「従業員1人3日分」の中身を数える
東京都の帰宅困難者対策ハンドブックと、国の「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」は、1人あたりの目安を次のように示しています(携帯トイレの行は、家庭向けの目安から計算)。人数を掛けるだけなので、計算は難しくありません。
| 品目 | 1人あたりの目安 | 30人の事業所なら |
|---|---|---|
| 飲料水 | 1日3L × 3日 = 9L | 270L(2Lペットボトル135本) |
| 主食 | 1日3食 × 3日 = 9食 | 270食 |
| 毛布 | 1人1枚 | 30枚 |
| 携帯トイレ | 1日5回 × 3日 = 15回分 | 450回分 |
携帯トイレの数は、東京都が家庭向けに示す「1日5個」をもとに3日分を計算した目安です。ハンドブックとガイドラインは、水・主食・毛布以外は物資ごとに必要な量を計算するよう示しています。
このほかに、簡易トイレ、衛生用品、敷物、携帯ラジオ、懐中電灯、乾電池、救急用品をそろえます。なぜ「3日」なのかという根拠は防災備蓄は何日分必要かに書きました。
数えるときのポイントが3つあります。
- 人数は「在籍者数」ではなく「いちばん人が多い時間帯の人数」で数えます。 交代勤務がある職場や、日中に外勤者が戻ってくる職場は、その最大値を使います。
- 来客・取引先の分を少し上乗せします。 東京都のハンドブックは、来社中の取引先など外部の帰宅困難者のために、例えば1割程度を余分に備蓄することも検討するよう示しています。
- トイレは意外と多く必要です。 15回分×人数という数字は、水や食料よりも置き場所を取ります。凝固剤タイプと吸水シートタイプの違いは携帯トイレの選び方にまとめています。
置き場所は「1か所にまとめない」
備蓄品は倉庫や地下にまとめて置かれがちですが、災害時にそこへ行けるとは限りません。次の3点で見直してみましょう。
- 分散して置く:全部を1か所に置くと、その部屋の扉が歪んだり、水に浸かったりしたときに全量が使えなくなります。フロアごとに分けて置くと、1か所が使えなくても残りが使えます。
- エレベーターが止まっても取りに行ける場所に置く:水は1箱でも重いので、上の階から地下まで運ぶ前提は無理があります。使う人がいるフロアに置くのが基本です。
- 鍵の管理を決めておく:備蓄庫に鍵をかけているなら、鍵の場所を当直者や各フロアの担当者が知っている状態にします。「総務部長だけが持っている」は休日や夜間に機能しません。
浸水が想定される地域では、備蓄品を1階や地下に置かないことも大切です。国土交通省の重ねるハザードマップで、事業所の想定浸水深を先に確認しておきましょう。
誰が判断して、誰が配るか
物をそろえても、当日の役割が決まっていないと動きません。次の3つを、紙1枚にまとめて掲示しておくと機能します。
- 待機するかどうかを誰が決めるか:責任者が不在のときの代理も決めておきます。
- 配る担当は誰か:フロアごとに担当者を決め、その人が備蓄の置き場所と鍵を知っていること。
- 安否と在館者をどう把握するか:入館者名簿や安否確認の連絡手段を、通信が不安定な前提で決めておきます。
また、徒歩で帰れる従業員と帰れない従業員を平常時に把握しておくと、当日の判断が早くなります。
期限は「半年に一度」でそろえる
会社の備蓄でよくある失敗の一つは、買ったあと点検の担当が決まらず、期限切れに気づかないことです。防災の日(9月1日)の前後と3月を点検の時期に決めて、担当部署の年間予定に入れてしまうのが確実です。
賞味期限が近づいた食料は、防災訓練で配って食べてもらうと無駄になりません。従業員が実際に中身を知る機会にもなります。
従業員の自宅の備えとセットで考える
会社の備蓄は3日間の待機を支えるものであって、そのあとの生活を支えるものではありません。従業員が安心して社内にとどまるには、家族が自宅で無事に過ごせているという前提が要ります。家具の固定や自宅の備蓄が進んでいないと、どれだけ会社に物があっても人は帰ろうとします。
社内の防災研修で防災備蓄診断を案内し、それぞれの家庭で必要な数量を出してもらうところまでを、会社の備えの一部と考えてみてください。
神奈川県の事業所なら、県や市の地域防災計画が示す備蓄の目安から人数と日数で量を計算する方法を、同じ株式会社キールが運営する事業所向けのサイト「防災経営」の事業所の備蓄の量と中身の決め方にまとめています。
まとめ:次にやること
- いちばん人が多い時間帯の人数を数え、水・主食・毛布・携帯トイレの必要量を出す。
- いまある備蓄の置き場所と鍵の管理を確認し、フロアごとに分散できないか検討する。
- 点検の時期(9月と3月など)を年間予定に入れ、担当者を決める。
参考資料
- 東京都「東京都帰宅困難者対策条例」(https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101RG00004283.html)
- 東京都「東京都帰宅困難者対策ハンドブック」(https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/369/202303.pdf)
- 首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」(令和6年7月)(https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/kitaku/pdf/kitaku_guideline-jigyosyo.pdf)
- 内閣府「大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドライン」(https://www.bousai.go.jp/jishin/kitakukonnan/pdf/kitakukonnan_guideline.pdf)
- 東京都「もしもの時に困らないトイレの備蓄」(2025年9月)(https://www.koho.metro.tokyo.lg.jp/2025/09/01-1.html)
- 国土交通省「重ねるハザードマップ」(https://disaportal.gsi.go.jp/)
- 農林水産省「家庭備蓄ポータル」(https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/)