公開 2026-09-23
在宅で医療機器を使う家庭の停電対策:ポータブル電源を買うのは最後です
酸素濃縮器を何日も電源で動かすのは、家庭用のポータブル電源では現実的ではありません。先にやるのは供給業者・電力会社・市区町村・主治医への確認です。順番と、確認する内容をまとめました。
在宅酸素療法(HOT)、人工呼吸器、CPAP、吸引器、電動ベッド。家で電気を使う医療機器があるご家庭では、停電への備えの順番が、ほかの家庭と変わります。
先に結論を書きます。ポータブル電源を買うのは最後です。 最初にやるのは、物を買うことではなく、連絡先を確認して登録を済ませることです。
この記事は医療的な助言ではありません。機器の扱いは、必ず取扱説明書・メーカー・主治医の指示に従ってください。ここに書くのは、どこに何を確認しておけばいいかという手順だけです。
なぜポータブル電源が最後なのか
必要な電力量が、家庭用の電源の容量を大きく超えるからです。
酸素濃縮器の消費電力は、機種や流量によって違います。正確な値は、ご自宅の機器の定格ラベル(本体に貼ってあるシール)に書かれています。 まずそこを見てください。
国立成育医療研究センター「災害対策マニュアル 医療機器が必要な子どものための~電源確保を中心に~」(第3版)には、ある機種の例として、流量5L/分で消費電力175Wと載っています。この175Wで24時間動かすと、必要な電力量は4,200Whです。1,000Whのポータブル電源では、計算の上でも5時間あまりで、変換のロスがあるので実際にはそれより短くなります。
必要な容量は「消費電力 × 使う時間」で決まります
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出典:経済産業省 資源エネルギー庁「省エネ性能カタログ2025年版」p.69(冷蔵庫の定格内容積別の年間消費電力量の平均、2024年)、p.129(9Wの電球形LEDランプの例)をもとに編集部作成
この図のとおり、冷蔵庫を1日動かすだけでも約800Whです。175Wの機器を24時間動かすと4,200Whで、その5倍ほどになります。
同じ機器で3日分(12,600Wh)を電源でまかなおうとすると、1,000Whの電源が表示どおりに使えたとしても13台分です。現実的ではありません。
つまり、在宅酸素の停電対策は「電源を買って解決する問題」ではないということです。ここを取り違えると、電源を買ったことで備えが済んだつもりになり、本当に必要な手配が抜けます。
一方で、機器によって消費電力は大きく違い、内蔵バッテリーを持つ機器もあります。機器によって答えが変わるので、次の順番で確認してください。
順番1:供給業者に確認する(最優先)
在宅酸素の機器は、多くの場合、酸素事業者(供給業者)が設置・管理しています。停電時の対応は、この業者が窓口です。
確認すること。
- 停電時用の酸素ボンベを借りているか。 借りている場合、何時間分あるか
- ボンベへの切り替え手順。 実際に一度やってみる。暗い中で初めてやることにしない
- 24時間つながる連絡先。 紙に書いて、機器のそばと持ち出し袋の両方に置く
- 停電が長引いたときに、業者が何をしてくれるか(ボンベの追加配送など)
人工呼吸器を使っている場合は、外部バッテリーの稼働時間と、電源が完全に失われたときの手動換気(蘇生バッグ)の手順も、あわせて確認してください。
この確認が、ほかのどの備えよりも先です。
順番2:送配電会社の登録を確かめる
送配電会社によっては、在宅で人工呼吸器を使う方の登録を受け付け、停電時に復旧の見通しを知らせています。在宅酸素やCPAPは対象外の場合があるので、登録できるかをお住まいの地域の送配電会社に確かめてください。
注意点を正直に書きます。登録したからといって、優先的に復旧される保証はありません。 大規模な停電では、復旧の順番は送電網の構造で決まります。登録は「してあれば有利になることがある」ものであって、それに頼る計画は立てないでください。
登録先は、お住まいの地域の送配電会社です。「(地域名)電力 医療機器 事前登録」で調べると案内ページが見つかります。
順番3:市区町村に登録する
災害対策基本法にもとづき、市区町村は避難行動要支援者名簿を作ることになっています。自力で避難することが難しい方を、あらかじめ把握しておくための名簿です。
さらに、名簿に載っている方一人ひとりについて、誰がどう支援するかを決めた個別避難計画を作る取り組みが進んでいます。
確認すること。
- 名簿に登録されているか。されていなければ、登録の方法
- 個別避難計画が作られているか
- 福祉避難所がどこにあるか。そこへ直接行けるのか、一次避難所を経由する運用なのか
- 電源の確保について、自治体独自の支援があるか
最後の項目は自治体によって差が大きいところです。非常用電源の購入費を補助したり、給付したりしている自治体があります(主に人工呼吸器を使う方が対象)。窓口は障害福祉課・高齢福祉課・保健センターなどで、自治体によって違います。
出典:内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」
順番4:主治医と決めておく
- 停電が何時間続いたら、医療機関へ連絡するか
- 停電時に受け入れてもらえる医療機関はどこか
- 移動手段をどうするか
台風のように予測できる災害では、上陸の前に入院や受け入れを相談できる場合があります。停電してから考えるのではなく、予報の段階で動ける形にしておいてください。
台風は、備える時間がある災害です
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出典:防災備蓄診断 編集部作成
そのうえで電源を用意する場合
ここまでの手配が済んだうえで、電源を足す判断をするなら、確認する順番はこうです。
1. メーカーに「この機種にポータブル電源を使ってよいか」を聞く
これを飛ばさないでください。医療機器には電源の品質(波形)についての要求がある場合があり、メーカーが非推奨としていることがあります。 動いたように見えても、機器に負担がかかったり、途中で止まったりすることがあります。
聞くのは機器のメーカーか、貸与元の供給業者です。
2. 定格ラベルの数字を見る
本体のラベルに書かれている消費電力(W)を確認します。カタログの「最大」と、実際の運転時では値が違うことがあります。
複数の機器を同時に使う時間帯がある場合は、その合計が電源の出力(W)を超えないかを見ます。合計が超えると、容量が足りていても止まります。
3. 何時間もたせたいかを決める
「何日分」ではなく「何時間」で考えてください。前述のとおり、消費電力の大きい機器を何日も動かすのは家庭用の電源では無理です。
現実的な使いどころは、ボンベへの切り替えや移動の準備をする間の数時間をつなぐことです。それなら意味があります。
容量の選び方そのものはポータブル電源の選び方と1000Whのポータブル電源でできることにまとめています。
停電が予告されているとき(台風など)
- 機器のバッテリーと予備を満充電にする
- 酸素ボンベの残量を確認する
- 供給業者と医療機関の連絡先を、紙で手元に置く(スマートフォンの電池が尽きる前提で)
- スマートフォンとモバイルバッテリーを満充電にする
- 車がある場合、燃料を満タンにする。車から給電できる機種かを確認しておく
- 懐中電灯を機器のそばに置く(暗い中で操作することになるため)
まとめ
- 供給業者に、停電時のボンベと切り替え手順、24時間の連絡先を確認する
- 送配電会社に、登録できるかを確かめる
- 市区町村の避難行動要支援者名簿に登録し、福祉避難所の運用を確認する
- 主治医と、連絡する目安と受け入れ先を決めておく
- そのうえで電源を検討する。買う前にメーカーへ使用の可否を確認する
物を買うより先に、電話をかけてください。順番を逆にすると、いちばん効く備えが抜けます。
停電そのものへの一般的な備えは停電対策に、停電に備える防災診断では家庭ごとの不足品目を確認できます。
関連する品目の選び方
参考資料